これは本来2020年に上演する企画だった。脚本家である私の代表作と言われながら、私が演出したのは劇団遊気舎による初演のみだった。なのでもし実現すれば当時で24年ぶりに自らが演出する事になるはずだった。しかしその年の初頭にコロナウイルスが日本にも上陸し、私が1月に東京で予定していた舞台は中止になった。その段階で私はクラアク芸術堂のプロデューサーである小佐部君と連絡を取った。
2020年の5月に上演が決まっていた『ダブリンの鐘つきカビ人間』を中止にしたのは私だ。理由はもちろんライブ上演すべてにかけられた厳しい規制が大きいが、私の思う最も大きな理由はこの作品の内容だった。

この作品は謎の病気が蔓延する小さな街から始まり、やがてその街が平和を取り戻すまでというのがストーリーである。しかし今まさにコロナの恐怖が日本を包もうとしている緊張の時、街を襲う病気に関する作り事の話など一体誰が喜ぶと言うのか？私ですら喜ばない。
「今じゃない！とにかく今じゃないんだ！待とう！」
 

やがて約3年が過ぎた。この国の人々はいっぱい闘った。いっぱい努力をした。他の国ではもうやめてしまった努力を今でもやめる事なくずっとずっと闘っている。おかげで少しずつ終わりが見えて来た。3年前と同じように暮らせる日がどんどん近づいて来た。なので私は言った。
「今だ！」
それぞれに都合があるため残念ながら前回予定していたキャストをすべて再結集させる事はできなかった。しかしこの作品を上演する最良のタイミングは”今”なのである。

脚本・演出　後藤ひろひと